支援者の「モラル」について

私たちが考える支援者の「モラル」のこと

一般的に「モラル」=道徳とは社会の成員によって承認され、かつ実現される倫理的諸価値ないし規範の総体１）とされます。私たちは個人的に大切にしている価値信条、例えば“ケア”、“”貢献“、”成長“、”創造性“、”挑戦“、”正直“、”忠誠”、”正義“、”秩序“、確実性”、“平等”、“安全”、“信仰”、“真実”、“仲間”、“富”など、ここではほんの一部の価値しか例としてあげられませんが、自分自身の人生の中核となる価値信条をもって日々生活をし、仕事をしています。

その中で、プロフェッショナルな支援者として仕事をするときには、個人の価値信条だけではなく、社会から承認されている倫理的価値の原則や規範に基づいて仕事をすることも求められます。例えば、倫理綱領や支援の対象となる全ての市民、患者・家族、コミュニティ（以下「支援の対象者」）に対して、「自立性の尊重」、「無危害」、「善行」、「公正」を行う原則２）などから支援者としての倫理的行動を見直すことがあります。すなわち、個人的な価値信条から社会から承認されている支援者としての倫理的価値観の原則や規範までを総じて支援者の「モラル」と考えることができます。 また、この「モラル」に関する能力は職業アイデンティティの発達とも相互に関連している３）との最近の研究報告もあり、支援者が役割を遂行する支えになっている可能性があります。

一方で支援者が活躍する現場は決して安定的ではなく、支援の対象となる人々の生命、生活、社会全体が危機的な状況となっている状況です。また支援の多くが他者との協働の中で行われるため、より様々な価値観や倫理規範と整合性を保ちながら役割を行っていくことが求められます。その中で多くの倫理的課題や対立が時に個人の価値信条を一貫することを難しくし、このことが「モラル苦悩」や状況によっては「モラル傷害」につながり、支援者のメンタルヘルスにも影響することが考えられます。４）５）

支援者自身の「モラル」を護りながら、支援の対象者への支援に対する倫理的な葛藤を克服していくことができる方法にはどの様なものがあるでしょうか？この問いを探求していくことは、支援者が過酷な現場の中で、職業的なアイデンティティを保ち、メンタルヘルスを維持する上でとても重要であると考えられます。

引用文献

1. ブリタニカ国際大百科事典　小項目事典 “道徳” https://japan-eb-com.ezproxy.tulips.tsukuba.ac.jp/rg/article-08103800 [アクセス日： 2022.5.9]
2. Tom L. Beauchamp, James F. Childress（1979), Principles of Biomedical Ethics, The Hasting Center Report 9:4:48-49
3. Haghighat S, Borhani F, Ranjbar H (2020) Is there a relationship between moral competencies and the formation of professional identity among nursing students? Bmc Nurs 19:49. https://doi.org/10.1186/s12912-020-00440-y
4. Koenig HG, Ames D, Youssef NA, et al (2018) Screening for Moral Injury: The Moral Injury Symptom Scale – Military Version Short Form. Mil Med 183:e659–e665. https://doi.org/10.1093/milmed/usy017
5. Nieuwsma JA, O’Brien EC, Xu H, et al (2022) Patterns of Potential Moral Injury in Post-9/11 Combat Veterans and COVID-19 Healthcare Workers. J Gen Intern Med 1–8. https://doi.org/10.1007/s11606-022-07487-4