支援者の「モラル」とメンタルヘルスを学ぶサイト
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ダイヤモンドプリンセス号集団感染事故における医療救援者のメンタルヘルス

高橋晶1,2) 田口高也2) 高橋あすみ3) 笹原信一朗4) 川島義高5) 新井哲明6) 太刀川弘和1,2) 

1)筑波大学 医学医療系 災害・地域精神医学 2)茨城県立こころの医療センター
3)北星学園大学 4)筑波大学 医学医療系 産業精神医学・宇宙医学
5)明治大学 6)筑波大学 医学医療系 精神医学

 COVID-19の感染拡大が始まった2020年2月に、横浜港でクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の集団感染事故があり、多数の災害派遣チームが救援活動を行った。 同船で活動した全ての救援者に向けてホームページを用いたメンタルヘルス支援を実施した。そこで、未知のウイルスによるクルーズ船の集団感染という特殊状況下で活動した救援者のメンタルヘルスの実態を知り、今後同様な事故が生じた際の支援のヒントを得る目的で調査データを分析した。

1.方法

 2020年2月11日~19日までダイヤモンドプリンセス号の集団感染事故において検疫を含む医療支援活動に従事した救援者のうち、同年7月1日~9月30日までの3か月間開設した「救援者のメンタルヘルス支援ホームページ」の利用者を調査対象とした。ページは、1)ストレス調査、2)惨事ストレスの心理教育、3)相談窓口紹介から構成されている。このうちストレス調査は、1)職種を含む属性、2)救援活動前・中・後の経験に関する質問、3)心理尺度(K6, GAD7, IESR)、4)ストレス内容の自由記述の項目を収集する。分析は、ストレス調査データを抽出して、各心理尺度をカットオフ値で分割し、従属変数、属性、活動状況を比較するクロス集計を行った。本研究は、筑波大学医の倫理委員会の許可を得て実施した。

2.結果

 ストレス調査で結果の得られた対象者のうち精神的不調が救援者の約3割、不安が約4割、トラウマティックストレスが約4割に認められた。メンタルヘルス不調者はそうでないものに比して、年代、職種、役割に加え、救援活動の際の経験に違いがみられた。
 回帰分析の結果、精神的不調に有意に関連したのは、年齢が低い、医師以外の医療職、活動後の十分な休養がとれないことなどであった。不安への影響要因は、医者以外の医療職、活動前に活動内容の説明を受けていない、モラルディストレスある事などであった。トラウマティックストレスの影響要因は、モラルディストレスある事であった。
 自由記述では、組織に対するモラルディストレスを示唆する訴えが多かった。


3.考察

 クルーズ船は、船内の限られた環境内で、乗客、乗員が長時間互いに近接しているため、救援者も感染リスクは高かった。また、乗客乗員には隔離により災害ストレス関連症状を含む精神的健康問題は、身体的健康事象と同じくらい頻繁に発生していた。今回の結果から、救援者は強い不安やストレスの高い活動を強いられたことが確認された。このような厳しい救援活動でメンタルヘルスを維持するには、管理職医師を中心としたチームで、事前の訓練や情報共有を行い、活動後の十分な休養を保証することが重要とわかった。
 また調査ではモラルディストレスが不安やトラウマティックストレスに強い影響を与えていた。 本調査から、未曽有の事態で不条理な活動を強いられる救援者には、モラルディストレスを軽減しトラウマティックストレスを予防する特別なチーム運用と訓練が必要と考えられた。

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